着道楽のこと
服が好きだ。着道楽と言ってもいいかもしれない。物心ついたときから好きかというとそうでもないけれど、幼いころに母が用意した服で気に食わないものがあると黙って着ていたけど内心いつか大人になったら好きな服だけ着てやると思っていたし、大学生になってからはバイトで稼いだお金は舞台鑑賞と服で消えていた。働き始めてからはいっそう顕著になって、ほとんど洋服代に消えているかもしれない。
思い出に残る服のこと。
憎んでいた服。
小学校高学年で着せられたバブルガムみたいなピンクのトレーナーにネオンの黄色や緑で文字が書いてあった。当時からシックなものが好きだった。あまりに品がなく、子供っぽすぎると思っていた。11歳なのに。
憎んでいた服その2。
オレンジ色のトレーナー。アリスに出てくるトランプのようなパッチワークが施されていて、たぶん高級品だった。だけど私はそのときオレンジ色が嫌いだった。今は大好きなのに。なのでどんなに母が「似合うわよ」と言ってくれても、着ていること自体が苦痛だった。だけどなぜか逆らわずに着ていた。おりこうさんだったから。
好きだった服。
クリーム色とオレンジと黒のボーダーにストレートのデニムを履き、黒のベロアジャケット、チェルッティの革靴。大学生のとき、『17歳のカルテ』のウィノナ・ライダーになりたかった。チェルッティの革靴は亡き祖母に買ってもらって、雨でシミになったりしたけどすごく好きでのちに黒も買った。たくさん履いて履きつぶした。
大学生くらいから色々服を買うようになった。たぶん失敗したものの方が多い。
辛気臭い話になるけど、東日本大震災のあとに本も読む気にならず、電気が戻ったのに映画も観る気にならず、ぼんやりインターネットをしていた私が活力をいれるために最初にやったことはチエミハラのサンダルを買うことだった。たしかあれは4月だった。
ベージュと黒の組み合わせ、ペタンコで古代の人が履いているようなシンプルなサンダル。
東北の夏は遅いので、そのころには元気になっていたいという希望で買った。
「モノ」は「モノ」に過ぎない。
無くなっても命がなくなるよりマシ。
そんなことは被災した全員が理解している。
それでも家を流され、自分の愛着ある持ち物が失われてダメになるのはとても恐ろしいことだ。間違いなく自分の一部が死ぬのと近い。
極限状態になったときに人はかつての自分にしがみつく。余震や津波におびえ、すぐ近くに死が存在し、一時はすべてを無くすことを覚悟した自分から、そんな絶望は知らなかったかつての自分へ戻る。サンダルはそのきっかけになった。そのあとはめきめき元気になった。
笑ってしまうことにサンダルは少し大きくて、履くと靴擦れして痛かった。全然履きこなせなかった。それでそのサンダルはいい靴だったけれど数年後に処分した。処分したことに何の未練もないし履いてないから愛着もわかなかった。それでよかったと思うのだけど、思い出に残る買い物はなにかと言われるとあのサンダルを思い出す。
わりとまじめに買い物依存症なのでは?と思ったこともあるし、軽度のそれかもしれない。買い物するとすっきりするみたいなのはよくわかるから、ストレス発散なのだ。破産したくないので我慢も覚える必要があるけど。
一つのブランドにつぎ込んでなりふり構わず買うような感じでもない。量販店どころか商店街に売っている服でもその気になったら過ごせるけど、そうしたら何かのアンテナが鈍っていくような気がして怖い。服は自分のアンテナがきちんと立っていることを確認するための、世間との間の膜みたいなものかもしれない。
もう必要ないと感じた大量の服の山を前にして売りたいとも思わないし、どんなに高価だった服も友達にどんどんあげてしまう。クローゼットの服がよんどころない事情により明日無くなります、と言われても、おお~そうか~という感じです。
そんなにブランドにも詳しくないしブランド哲学にもあまり関心はないし、なんなら服や宝飾品の美術展は全然楽しいと思わない。これは自分でもびっくりした。着ないと楽しくないのだ。ハイブランドのクチュールドレスがきれいに並んで展示されているのを見ても、これが着られるなら楽しいのにとしか思わなかった。職人の技に敬意は払うし、すばらしい芸術品だと思うけど、なぜか服は誰かが身に着けている前提でないと興味が持てない。
あとセール会場もすごく苦手だ。ファミリーセール会場は足を運ぶけど全然好きになれない。同じ服がたくさんたくさん並んでいると具合が悪くなる。ゴミみたいに扱われてる服をみるのもつらい。もちろん安くなってるからほしい、ほしいのだけど買えないことが多くて、損だなあと思う。
予算が限られた中で選んだり、店員さんとあーでもないこーでもないと言いあったり、コーディネートを考えたり、生地や仕立てにいちいち感動したり、「天才~!!」と店頭で叫ぶような買い物が私は好き。
そういう感じで執着があるのだかないのだか自分でもわからないけど、服が好きだ。
大きい声では言いづらいけど、本当はたぶん、そうやって服を着ている自分が好きです。
以下はこの冬にしているコーディネートなどの落書きと雑感
なんかいつもおしゃれに気を使っている人みたいになっていますが、変な格好しているときもあります。何も考えたくないときは黒いタートルにデニム、スニーカーがいちばんじゃよ。
以下、この記事を書くにあたって聞かれたものです。
これは指南ではなく「私は」そうするよという話なので、はっきり言って服など年齢も性別もTPOも関係なく、好きなものを好きなように着ればいいと考えています。外野はほうっておきましょう。
Q.「コーディネートのコツってなんですか」
A.色と質感、全身のフォルム。
この3つがポイントかなと思います。
全身黒とか全身白も好きですが、トーンをそろえた後に差し色を入れるのか、なじみ色を入れるのかで変わってきます。私は差し色を入れるのが好き。
色がガチャガチャしているのが似合う人はオッケーだと思いますが、一歩間違うと色彩の大渋滞になりかねないので…。私はネオンカラーを着ているときに周囲の人に冗談で「輝いていてごめんね」とよく言います。
困ったら靴と鞄は同系色にしましょう。それだけでまとまりが出ます。
冬はもたっとした重めの質感の生地が多いと思いますので、つるつるした生地やシャリ感のあるもの、透ける素材やレースなど軽めのものと合わせるとコーディネートが広がって楽しいです。
体型や骨格によっておそらく似合うフォルムがあると思います。
Aライン、Iライン、Vラインなど。私はわりときゃしゃな体型なのでゆったりしたものの中で身体が泳ぐ感じが好きです。乳や尻もキム・カーダシアンみたいに立派ではありませんが、そういうセクシーさを強調したいときにはぴったりしたものを着たりします。
余談ですが、胸がぴったりしたものを着ていると一部のぶしつけな男性がこちらをじっくり見ているのがわかります。そういう時、私は「女体」の記号化なんだと感じる。うける。(うけない) ファッションは斯様に他者の視線の影響もありますね。
もともとが目鼻立ちも地味で小づくりで女性的な体つきなので、かえってメンズライクなものに走りがちなのかもしれません。服の生地のハリでボリュームが出たり、ぴったりまとわりついたり、身体にどんなふうに沿ってくれるのかも着る楽しみです。
細やかな診断等は受けたことがないので、そういうのが気になる人はプロの診断を受けるとよいのではないでしょうか。
それから、ファンシーなものとロックなものを合わせたりというのはわりと上級だと思うので、できればアイテムの性格をそろえましょう。
Q.「 好きなブランドは何ですか」
A.ハイブランドから古着までたくさん!
そう聞かれるとそこまでこれが好きで~!という入れ込んでいるものはないです。大体が私もルミネなどのファッションビルや伊勢丹などの百貨店で見繕うことが多い。でも長く着られる美学があるような、そういうお店には好感を持っています。年齢のわりにはアホみたいな恰好している自覚があるのですが、楽しければいいやという感じです。
以下好きなブランドなど。
シンプルで質がよい服を置いています。青山と新宿にお店があります。オリジナルのPhanelもよい。メンズアイテムをよく買います。
ソニア・パークさんのお店。生活全般のものを取り扱うのもいい。ちょっと敷居が高い気がしてる。けどとても素敵で背筋が伸びます。お財布とコートと靴を買ったことがあります。
ハイブランドにはあまり興味ないけど、ジル・サンダーはかっこいい。時々見に行って素敵~五億円ほしい~と身もだえて帰ります。
20代初めにウワー!となって買ったスカート、いまだに履くのですごい。あのとき一年くらいかけて払った(お金がなかったので)。一周回って今ちょっと買い足したいと思う。
メンズのスポーツアイテム好きです。原宿・吉祥寺のお店に行くとなんかかっこいいやつがあったりする。スポーツしないくせに買ってしまう。
やたら好きです。でもそこまで絶対的に服が好きというわけでもなく、一年に1つアイテムを買うかなくらい。でも面白いよね、TOGA。
tommorowland系列の。ほっこり北欧ぽさもあるので自分のとんがりを中和したいときに買ったりします。幅広い年代が手を出しやすい良さがあります。
HYKEやmame、AKIRANAKA、TAN等もよく見ますが、なんとなく服のスタイルが似合わない気がしてまだ買ったことがない。あとはあんまり買わないけど、時々のぞくお店はフランス系のキュートな感じ→A.P.C、シンプルでモードな感じ→エンフォルド、若い子の流行り→CLANEだなと思う。
古着もすごく好きでよく買います。全然開拓できていない場所があるので、古着やさんめぐりしたいなあ。
今は日本人デザイナーのブランド、面白い海外のブランドをこつこつと探しています。これは私が買いたいので内緒です。いちばん行きたいセレクトショップが名古屋にあるので目標です。
来年もかわいくてかっこよくて素敵な服に巡り合えますように。
おしまい。