2014.5.4【タイタス・アンドロニカス】

『タイタス・アンドロニカス』グローブ座 5/4 Sun. 13:00~

シェイクスピア行ってきました。ジュリー・テイモア監督、アンソニー・ホプキンスジェシカ・ラング主演の映画『タイタス』が好きで好きで今でも繰り返し観てしまうのですが、その勢いでチケット取りました。

どうやら8年前に公演して好評だったバージョンの再演らしい。

場内はこんな感じ。昔ながらの円形劇場を再建築したものらしいですが、舞台の目の前の立ち見席の雑多な感じなんかはシェイクスピアもので観る民衆の感覚で楽しそう。私は安い席だけどクッション(1£)借りて観ました。

ここからグロ注意の写真貼るよ

 

 

 

タイトルロールのタイタス役はガイ・リッチー版『シャーロック・ホームズ』で優しいクラーキー警部を演じていたウィリアム・ヒューストン。登場した時から、妙にぴょこぴょこした大げさな動きでかわいらしいというかなんというか。タイタスは後半に行くにしたがって、狂気を演じる役なので映画版のアンソニー・ホプキンス御大は前半は落ち着き払ってたのが印象的なのですが、こちらは最初からタイタスは紙一重の人なのかな?と思わせてくれます。

悲劇のヒロイン、タイタスの美しい愛娘ラヴィニアはフローラ・スペンサーロングハースト。この人の演技すごかった。夫を殺され、強姦され、舌と両手を切られてしまうラヴィニアは、血で血を洗う宿敵同士のタイタスVSタモラの凄惨な闘いの分かりやすい犠牲者として存在するだけではなく、復讐の余波が如何に恐ろしいかを観客に伝えてくれる大事な役。前半の可憐さが際立つからこそ、事件の後の半ば狂気の淵に立っているかのような、声なき声でうめき、身振りで自身の苦しみを訴える姿、口から血を流す姿は『見世物』として観客にも再び目で"強姦"される面もあり…。はっきりいって、ここのラヴィニアは下手なホラー映画より恐ろしかった。人の内部が破壊されるとこうなるのか…って思います。

彼女の場面でぶっ倒れて、劇場の外に連れ出される観客も数名。自主的に出ていく人も少なくないです。特に舞台前の男性陣は、目の前で美しい乙女がもがき苦しみ、心も身体も傷だらけの様子にそわそわと居心地が悪そうでした。とにかく血糊がすごい舞台なのです。

タモラとサターナイナスのやり取りはどこかコミカルで(特に愚かな皇帝サターナイナス)、観客の笑いを誘うものでした。タモラはとってもキリッとしていて素敵なんですけど、個人的にはジェシカ・ラングのような凄味がもうちょっと欲しかったかな。なんせ映画版のアラン・カミングジェシカ・ラングカップルが、マザコンのバカ息子のようで最高だったものですから。ただ、こちらも、棒みたいに細くて頼りなくて若くて愚かなサターナイナスにはぴったりの姉さん女房として見るととてもバランスがよいです。

そして影の主役アーロン。この人すごく上手でした。声がよかったなあ…

アーロンは悪を全身で体現しているにも関わらず、自分とタモラの間の不義の子は全力で守ろうとします。この力強さが、悪い奴なのにちょっと頼もしく見えてしまう。

カーテンコールがとてもキュートだったのが唯一の救い。

それから、マーカス・アンドロニカス役の方が代役で、片手に台本握りしめてずっと演技していたのが大変そうでした。それでもセリフつっかかったりしないですし、観客も笑っちゃだめだよ~というところはあったけど、温かく舞台を見守っていて、昔も今もこういう雰囲気で舞台を楽しんでいたんだろうな~としみじみイギリスのお家芸を感じました。

けれんみたっぷりで、見世物的なグロテスクさもありつつ、きちんと演劇が成り立つ『タイタス・アンドロニカス』とってもおもしろかったです。