限界オタクは高潔な弟の夢を見るか

 

花沢勇作という男にハマって丸1年と10ヵ月経ちました。

 

 

花沢勇作。私が声に出して言いたい日本語、No.1。

 

 

はなざわゆうさくとひらがなで書いてもかわいい。ハナザワユウサクとカタカナで書くと爽やかです。かわいくてさわやかで、なおかつむちゃくちゃにかっこいい男なのです。なのですと断言したけど、それは私がそう思いたいから。

真実は作者である野田先生だけが知っている…。

 

 

なぜかというと彼は2019年12月13日現時点で、素性も性格も顔もよくわからない男だからです。

 

 

 

というわけで絶賛私が好きな漫画ゴールデンカムイの登場人物、花沢勇作さんについてオチもない話をします。

 

 これはぽっぽアドベント企画の13日目です。お誘いいただきありがとうございます。

 

念願のアドベントカレンダー主催します!「私が動かされたもの」をテーマに書き手を募集します。心が動いた瞬間、射抜かれてハマってしまったもの、うっかり体まで動いちゃったぜ…など2019年に起こったエピソードを募集します。楽しいものが読みたい! #ぽっぽアドベント https://t.co/sMLbWBbNKr

— はと (@810ibara) 2019年11月18日

 

 ぽっぽアドベントの主旨としておそらく「今年動かされたもの」が前提なのかもしれないけど、勇作さんには今も全力で動かされているから…。私は異母兄弟(弟×兄)で同人誌を描くオタクなので、若干カップリング要素の匂いがするかもしれません。そういうのが苦手な人もご注意ください。

アッもういいですという方は花沢勇作という名前だけ覚えてブラウザバックね!

 

 

 

■ 概念の男

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概念の男 花沢勇作

 

ゴールデンカムイ。とんでもなくおもしろい漫画です。

ハマったばかりの頃に洋画ファンの友達たちとの飲み会があったのですが「ゴールデンカムイ読み始めて!!!」と興奮しながらしゃべったら「あーあれね面白いよね」ってほぼみんなが…。みんなこんなに面白い漫画読んでるのに一言も言わないじゃん!!!!! 

累計発行部数、単行本第18巻の発売時点で1000万部を突破しているんですって。すごいね。

ちなみに好きな漫画はジョジョドラゴンボールです。福山庸治鳩山郁子作品は全部好きです。

 



私が読んだのは前述の通り1年ちょっと前なのでかなりの新参ものと言えます。それまで海外ミュージカルや洋画、特に俳優マーク・ストロングのファンとして数年オタク活動をやっていたのでまさか自分が国内産青年漫画に足をつっこむとは思っていませんでした。ましてや、濃すぎるくらい濃い数多くのキャラクターが登場する中の故人にハマるとは…。

私は花沢勇作が大好きですが絶対に避けてとおれないのが尾形百之助の存在です。むしろ尾形百之助という男の目を通した花沢勇作を愛しているといっても過言ではないでしょう。

 

 

人気キャラのお兄ちゃん・尾形百之助です。

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左手で描いたおがたひゃくのすけくん

情報が多い人なので調べてください。

 



 

私はよく花沢勇作を概念の男と呼びます。

花沢勇作はミステリアスな男です。若く、どうもイケメンらしく、異母兄である尾形百之助にまとわりついていたと称される少尉です。

彼は眉目秀麗・成績優秀・品行方正と三本立てで評価されるわけですが、それは彼の務めた旗手という仕事に求められた資質です。

眉目秀麗と言われつつ、目元が現在にいたるまでわかりません。

 

 

そんなキャラっている!???? 

 

 

なのにゴールデンカムイ人気キャラ投票で9位に入ってるんですよ。

私も入れましたけど。みんな大好きだなあ、花沢勇作のこと…わかるよ…お慕い申し上げております、花沢少尉殿………。

 

 

 

花沢勇作さんは異母兄である尾形の回想にしか登場しません。回想は読者のみに共有されており、他人についてはその内面を鋭く見抜き、それっぽいことをペラペラ喋るくせに自分のことはほとんど語らない尾形百之助の過去の秘密に近いものです。

 

そう、花沢勇作は高熱で朦朧としているときに現れる幻覚と回想の中にしか存在しない尾形の過去の男……

 

つまり、私が萌え狂って日々かわいいとうめいているキャラクターは尾形百之助ただ一人の視点で語られる人物に過ぎないのです



つらい。



人間には多面性があるため、一人の目を通してでしか語られない人物は信憑性がない。ゴールデンカムイはこれをことあるごとに演出してくる漫画です。

現時点で花沢勇作と会話をしている様子が明かされているのは尾形ただ一人ですが、彼はあまり人として信頼できる語り手ではありません。

アダルト・チルドレンで、人との関わり方が不器用な彼は差し出したものを受け取らない相手(母、弟、父)をつぎつぎと殺めます。また、物語の大筋にどう関わっているのか明かさないまま様々な陣営を行き来するため、「コウモリ野郎」と呼ばれています。

現時点で何を考えているのか全然わからないNo.1である尾形からしか情報がないので、霞を喰っているような気持ちです。

 

 

 

勇作さんは尾形の中で頭も顔も性格もいい、絵に描いた王子様のように描写されます。何より「両親から愛され、祝福されている子ども」なのが、父親・花沢幸次郎に捨てられ、精神の均衡を崩した母親にネグレクトされていた尾形にとってはいちばんのポイントです。自分と母を棄てた男の嫡男はどんな人間かと思いきや、自分をてらいなく「兄様」と呼び慕う屈託のない男だったのです…ヴェルタースオリジナル…特別な存在…。

勇作さんは戦場においても旗手=不殺の偶像(アイドル)として機能しています。兵士たちにとっては先陣を切って鼓舞してくれる心のよりどころに、兄にとっては自分とは真逆の祝福された存在として二重のアイドルをになっているのが花沢勇作なのです。

 


実在の人間をアイドル、特別な存在と位置付けることは時にはかなり危険な行為になります。現実社会でモノ化やコンテンツ扱いされるのはしんどい。

とはいえ、オタク的には萌えポイントです。

フィクションにおいて当該人物のスペックが人外めいていればいるほど、むちゃくちゃよいですね。ほぼ伝説の生き物だもん

 

 

 

 

結論:勇作さんはユニコーン

 

 

 

 

落ち着きます。

ユニコーンじゃない。人間だよ。

尾形百之助が弟をそう見ていた証明以上のなにものでもないのですが、たぶん勇作さんが眉目秀麗・成績優秀・品行方正であったのは疑っていません。ここは次項に続く。

こういうよくできた人間が実は腹黒かったとか、悪の大ボスであったという展開もあまりに極論すぎてちょっとなあと思うし…。

※二次創作としては好きです、二次創作はなんでもありなんだ

 

ユニコーンツチノコレベルで空想の生き物感が強いくせに存在感がやたらあるのが花沢勇作というキャラクターです。神話が作れちゃう男なんだ。

 

 

 

 ■ 人間としての花沢勇作

 

ところで、あんなに弟がうざいみたいな態度を取っておいて何なのだろう尾形百之助は。弟以外のところでもなんやねんおまえというところの多い尾形さんですけども。

具合の悪いときに見える弟の幻覚が、自分を気遣う姿である is 何…?

 

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悪霊? 守護霊? 幻覚? それとも…

 

尾形の中では頭から血をだらだら流しながらも兄にやさしい言葉をかける存在だというのが萌えすぎる。あまりにも都合が良すぎるので、「もしかして眉目秀麗・成績優秀・品行方正な弟とはあなたの中にしか存在しないのでは?」という使い古しの意地悪を尾形にぶつけてみたくもなりますが、いくら信頼ではない尾形からの情報であったとしても、存在はほかのキャラからも示唆されますので存在はしている。していてほしい。勇作さんはいます。

 

 

なぜなら

尾形には

創作の才能がない

(186話「忘れ物」= 尾形による一世一代の『杉元の最期』二次創作を参照のこと)。

 

 

敵の思考回路が読めるならちょっとはできてもよかろうに…。 

 

 

彼は優秀な兵士なので先を予測する能力はあるのに、人との関わりにおける想像力が決定的にない。尾形は与えられた生育環境を出たのちも、立場を飛び越えた対人関係を築かずにスポイルしてきた男です。だからかえって与えられた役割を果たすことが任務である兵役の中では生きやすかったのではないでしょうか。

 

 

あのクオリティを見るに、勇作さんとの細やかなやり取りまでは捏造できないでしょう。自分の乏しい経験とどこかで聞きかじった他者の経験を乱雑につなぎ合わせることでしか物語が生み出せない。ウッ

尾形、同人オタクじゃなくてよかったな。売れなかった在庫を持ち帰りながら「やはり俺ではだめか」とぼやく尾形は見たくない。なのでセリフに関しては事実だと思います。しかし野田先生が伏線をはるのがまことにうまいということも覚えておきたい。

 

 

こうなってくると四文字熟語以外の部分の人間・花沢勇作を知りたくなってくるのが人情というものです。よくできた人間だからこそのしんどさがあったのではないか。

大量の読者を兄弟沼転落に導いた164-165話(「悪兆」「旗手」)は伝説の回です。ほぼ同人誌みたいな内容でした。

特に『旗手』では勇作さんの不殺の偶像という仮面をはがそうとした兄とのやり取りが描かれます。

 

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拙作『ノスタルジア』から該当の場面へのオマージュ

 

 

私は彼を「七コマの男」として通った鼻筋と変な手つき(🖖)とまつ毛のかわいさと歯並びの美しさを心に刻みつけて生きていくつもりだったのに…。

まず再登場すると思っていなかった。164話を読んだ翌日、私は仕事が休みだったのでなんとかセーフでした。でもまじでどうにかなりそうでした。

 

 

 

 

 

165話の勇作さんはむちゃくちゃ残酷だと思います。

しかしあの時点で彼が兄に対して与えられる精一杯の愛だとも思うし、弟の殺害を尾形の正当防衛とも思わない。対話によっても分かり合えないことはあるし、人生そんなことばかりだからこそ、命を奪ってしまうのは相手を認めないのと一緒だと思うんですね。そもそもあれは対話だったのだろうか? 

お互いがお互いを深く観察してしばらく付き合って、それでやっと対話は成り立つと思うのですが、ほとんどあれが自身の内情を吐露した最初で最後の機会に思われます。それで相手を決めつけちゃう(あるいは決めつけられたと感じる)のが勇作と尾形の悲劇です。

 

 

「兄様はそんな人じゃない」は「あなたはモンスターではない」という意図だと思いますが、次で大きく反転します。「人を殺して罪悪感のない人間(モンスター)はこの世にいて良いはずがない」。

尾形には罪悪感はありません。少なくとも自分はそう信じています。ここで勇作さんの言葉は尾形の存在の否定になり、結果的に「あなたはモンスターだ」と言ったようにもとらえられます。悲しいですね。

 

告げた花沢勇作を殺すことによって、尾形は却って弟から離れられなくなってしまいました。殺さなければよかったのに、殺してしまったので永遠です。残念でした、おめでとうございます。ホラーだけどラブストーリーなのがいい。

 

大事な言葉を忘れていましたが、勇作さんは「いつか分かる日が来ます」と宣言もしています。 はっきり言って尾形には余計なお世話なのかもしれませんが、勇作さんは兄が生き延びることを信じており、なおかつ尾形のセルフケアについて言及しているのが希望だし、愛だなあと思っています。

天から遣わされた使命を果たしてキャラクターは消えていくのがゴールデンカムイの定石ですが、だとしたら花沢勇作は異母兄に「私はあなたの未来を信じます」を告げるために存在したキャラクターじゃないですか。

 

 

エモすぎないか…?

 

 

いや、ほんとは他にもいろんな象徴だと思います。家父長制の中で犠牲になる息子とか戦時の偶像とか…このあたりはまだまだ何かが出てきそうで下手なこと言えない。

あと父・幸次郎は花沢勇作を息子として愛していたのか、というぞわぞわする疑問が109話の語りから浮かんできたので助けてほしいです。

「貴様の言うとおり何かが欠けた人間」「出来損ないの倅じゃ」はほんとに尾形のことなのか?っていうね…ワーン怖い!!!!

 

 

■ 行間が空っぽの方が夢つめこめる~

 

 

同人オタクとしては情報が多すぎるより少ない方がやりやすいなと思います。そういう意味で、ぜんぜんわからないことの方が多い花沢勇作はオタクの夢をつめこみやすいのです。

旗手をやって色々背負っているものがあるのに、オタクの願望まで背負わせて本当にごめんね勇作さん…と反省はするけれど、きっと勇作さんは土ぼこりに汚れた顔の中、白い歯を輝かせ、笑って「留まるときではないぞ!」と言ってくれるはず(夢小説)。

 

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モブになって勇作さんと恋に落ちたい(勇作さんの顔は捏造です)

 

 

とにかく私は大陸の凍えるような冬の朝、自分に短剣を差し出し、あまりにも異質な願い事をする兄を見て、泣きながら抱きしめずにいられなかった弟に希望を見出したいんですよ。

 

自分をモンスターだと思ってしまっているとき、本人が本当に必要としているのは「あなたはモンスターではない」という本人が感じている異質性を無にしてしまうような他者からの「あなたも私達と同じだ」ではなく「自分は自分のままでいい、それが自分にとってモンスターとして生きるということであろうと、モンスターではないのだという気付きであろうと」という自分の中から出てくる納得だとは思うんだけど、でも私達が一人で生きているのではない以上、やっぱり土台には他者からの「それでも私はあなたを自分を大切に思うのと同じに愛する」がないといけないのかもしれない。

 

と、rubaちゃんが奇しくもぽっぽアドベント1日目でアナ雪における隣人愛について書いているのを見て泣いています。

 

 

自分と他者を観察し続けることでしか私たち人間は老成できないのではないだろうか。

 

悪いことをするものは見られるのが怖いというおっそろしい一言がアシリパさんから発せられていますが、尾形が弟の目を見ることができる日が尾形にとっての救済・赦しであってほしい。自分を知るための第一歩という意味において。

 

 

少しシリアスな話ですが、こんなにも好きなキャラクターではあるけれど旭日旗の象徴するものを考えるとこれを掲げさせられていたとはなんとしんどさがあるのだ…としみじみしてしまいます。二次創作の表現上、花沢勇作が旗手であったことは描きますが、侵略の象徴である旗自体を肯定的に描かないように気をつけようと思っています。

戦争という負の歴史、そして今も続く少数民族への差別や迫害といったテーマを緻密な調査とけして誰も置き去りしない理念を持って描いているゴールデンカムイをリアルタイムで読めてしあわせだなあと思いつつ、自分が二次創作をする上で配慮したいことも考えさせてくれる花沢勇作くんに感謝……ラブ………愛してる……

 

 

死してなお、兄の中で「寒くはありませんか」とほほ笑んで訊ねる弟の幻覚に対して、The cold never bothered me anyway(寒さなど一度だって感じたことはない)と尾形が言い切る日が来るのか、それとも抱えるものを見つめて寒さを感じ始めるのか、どっちかな~と思いつつ、私はたぶんもうしばらく兄弟の行く末を追い続ける所存です。

 

 

 

結論:アナ雪は勇尾なのかもしれない

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違和感仕事しろ

 

 

 

突然の宣伝ですが同人誌描いてるんでよろしくお願いします。新刊です。

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 次は3月の黄金暗号8に出ます。